(東京から引っ越してきた人の作った京都小事典)
朮詣り(おけらまいり)
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大晦日から元旦にかけて八坂神社では朮(おけら)が頂ける。
この朮だけは特別に黙認されているのだろうか、火のついたまま公共の乗り物に持ち込んで自宅まで持って帰ることができる。
粋な計らいである。歴史と伝統の為せる技だろう。
- 【新明解国語辞典第四版】
- 記述なし。
- 「朮(おけら)」については次のような記述がある。
- 山野に生える多年草。秋、白または淡紅色の頭状花をつける。・・・根を干して屠蘇散に入れたり健胃剤としたり、蚊いぶしに使ったりする。
- Webサイト「洛東ネットワーク」には次のような記載があった。
- 八坂神社では朮を鑚火(きりび)で焚き、その煙のなびく方角を見て豊凶 を占う。参拝者は、境内の白朮(おけら)灯籠に移されたその浄火を吉兆縄に点火し持ち帰り、神前の灯明につけ、正月の雑煮を炊く時の火種として一年間の無病息災を願います。
| こんな風にグルグル廻します |
- 【私説】
- 大晦日から元旦にかけて、八坂さんから帰る人の多くは、火のついた火縄をグルグル回しながら、歩いている。
- この火縄は自宅まで持ち帰るわけだから、公共の乗り物で来た人は、そのまま再度公共の乗り物に乗るはずである。
- 八坂さんも含めて寺社への初詣の人のために、JR・市営地下鉄・阪急・京阪などは終夜運転している。
- 火のついたままの火縄を乗り物に持ち込んでよいのであろうか。
- 私の経験では、JR・市営地下鉄・阪急で拒否されたことはない。結構な数の乗客が車内で火縄をグルグル回している。
- 「旅客営業規則」はどうなっているのどうか。
- 調べてみると、京都市営地下鉄の「京都市高速鉄道旅客運賃条例施行規程」は次のようになっている。
- 第8章 手回り品
- (持込禁制品)
- 第121条 旅客は,次の各号に掲げるものを列車内に持ち込むことができない。
- (1) 危険品及び他の旅客に危害を及ぼすおそれのあるもの
- (2) 暖炉及びこん炉
- (3) 死体
- (4) 動物
- (5) 車両を汚損するおそれのあるもの
- (6) 前各号のほか,不潔又は臭気のため,他の旅客に迷惑をかけるおそれのあるもの
- (制限手回り品)
- 第122条 前条の規定にかかわらず,次の各号の一に該当し,かつ,次条第1項に規定する範囲内の物品は,列車内に持ち込むことができる。
- (1) 危険品中適用除外の物品及びライター,懐炉等で危険のおそれのないもの
- (2) 小鳥,昆虫,初生ひな,愛がん用小動物及び魚介類で完全な容器に入れ,他の旅客の迷惑とならないもの
- (手回り品)
- 第123条 旅客は,次の各号に掲げる範囲内の物品を携帯して乗車することができる。ただし,長さ1メートルを超える物品は,この限りでない。
- (1) 定期券等を使用する場合 容積0.025立方メートル以内で,かつ,重量10キログラム以内のもの1個
- (2) 定期券等以外の乗車券を使用する場合 容積0.025立方メートル以内のもの及び容積0.05立方メートル以内のものそれぞれ1個。ただし,これらの総重量が20キログラムを超えないもの
- どうやら朮の火は、危険品や、他の旅客に危害を及ぼすおそれのあるもの、他の旅客に迷惑をかけるおそれのあるものとは見做されていないようだ。
- とはいえ、年末年始以外の時期に朮を回したり、年末年始も朮以外の火のついたものを振り回していたら、おそらく乗車を拒否されるだろう。
- 「八坂さんの朮だけ」が特別に黙認されているのだと思う。
- 【補足】
- 「朮詣り(おけらまいり)」と書いてきたが、八坂神社側は「をけら詣り」とか「白朮祭」とか言っている。
- まずは「朮(おけら)」と「白朮(おけら)」
- 「植物のオケラ」は漢字で「朮」と書く。これは中国名をそのまま使用している。
- 「オケラ属」の根茎をそのまま乾燥させた生薬を「蒼朮(そうじゅつ)」、皮を剥いで作った生薬を「白朮(はくじゅつ)」と言う。一般に、蒼朮(そうじゅつ)にするのは「ホソバオケラ」、白朮(はくじゅつ)にするのは「オケラ」「オオバナオケラ」。
- 八坂神社の「おけらまつり」では、「オケラ」を焚き、灯籠に移された「オケラ」の火を吉兆縄に移す。参詣者はその吉兆縄に移された火を持ち帰る。
- ここで焚く「オケラ」は加工された生薬でなくその原の植物であるから単に「朮」と書くのが適切なような気がする。
- 「詣り(まいり)」と「祭(まつり)」は、参詣する側と主催する側の見方の違い、と考えればよいだろう。
- 以上の観点からここでは、「白朮祭(おけらまつり)」と書かずに「朮詣り(おけらまいり)」とした。