38.右近

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わすらるる  みをはおもはす  ちかひてし  ひとのいのちの  をしくもあるかな
忘らるる 身をば思はず ちかひてし 人のいのちの をしくもあるかな
忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな

■友札   わすれじの

■歌について
男に捨てられたにも拘わらず、その人に神罰があたって死ぬことがないように祈る歌。女の恋心の切なさに、定家は心が動かされた。
■出典
拾遺集恋四
■作者略歴
生没年未詳。醍醐天皇穏子(やすこ)の女房。勅撰歌人でもある右近少将季縄の子であることから、右近と呼ばれる。藤原敦忠師輔朝忠源順らと交際があった。


  • 「右近」については「史料」がほとんどなく不明点ばかりですが、分かっていることを整理してみました。
    1. 上の和歌(貴方に忘れられた私の身はどうなろうと、仲を神仏に誓った貴方が神の怒りで命を落とすことがないように)が詠まれた時期も不明
      • 「大和物語」によれば、お相手は藤原敦忠
      • 折角相手のことを想って詠ったのに、敦忠から返歌はなかったようです。「右近の片想い」だったか。
    2. 「おほかたの 秋の空だに わびしきに 物思ひそふる 君にもあるかな」(貴方に飽きられて、今日はいつもの秋より侘しく感じるわ、後撰集)
      • 「恋仲だった男が久しく訪れてくれくなった九月に詠む」と詞書にある。
    3. 「とふことを 待つに月日は こゆるぎの 磯にや出でて 今はうらみむ」(貴方が訪ねて来るのを待っていたのに来てくれなかった。今は海を眺めてもう恨むのはやめることにしますわ、後撰集)
    4. 「身をつめば あはれとぞ思ふ 初雪の ふりぬることも 誰に言はまし」(初雪が降るごとく私もふられた。とても悲しく思う、後撰集)
      • 「男が久しく通って来なくなった十月、雪の降る朝に詠む」と詞書にある。