（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

具注暦 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 暦法の変遷（平安時代まで）
  • （この時代範囲では）日本はすべて中国から輸入していた。

    暦法	施行開始年	備考
    元嘉暦	604年（推古朝の12年）	日本で初めて暦が使われた（持統６(692)年説も）
    儀鳳暦	697年（文武朝の元年）	690年（持統朝の4年）から並行試用
    大衍暦	天平宝字８年(764)	平安時代初期はこの暦法であった
    五紀暦	天安２年(858)	わずか４年間だけ使われた
    宣明暦	貞観４年(862)	次の改暦は貞享２年(1685)、長く使われた

    
    
  • 具注暦の考え方も輸入されており、大宝律令（大宝元年(701)制定）で「暦に関する諸規定」も整えられた。

  毎年、１１月１日までに「来年分」を作り、「中央官庁」・「地方国衙」に送る（ことが規定されていた） 不足する部署は自ら「複製本」を作った

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• 暦注（季節や日の吉凶など）の増加
  • 当初は中国と同じであったが、陰陽道が藤原氏の御霊信仰に使われるようになった頃から、日本独自の暦注が加えられるようになった。
    • 史料で明確なのは「貞信公記抄」（延喜７年(907)〜天暦２年(948)）で、「七曜、二十七宿、大将軍遊行」などが加えられている。
    • 「御堂関白記」（長徳４年(998)〜治安元年(1021)）の頃で、増加が止まった、即ち「日本の暦注」が確定したと考えられる。
    
    
  • 長徳年間(995-)具注暦の「ある日」の例で見ると、次のようなことが書かれている（まだまだ他の暦注もありますが、省略）。
    • 上段
      • 日付・干支＝＝干支は十干（甲乙丙・・・）十二支（子丑寅・・・）。
      • 納音（なっちん）＝＝干支に五行を配当した「運命判断」。図例では「金、火」。
      • 十二直＝＝日々の吉凶、生活の指針を示した１２個の語。図例では「定」（善悪定まってとどまる日、の意）、「開」。
      • 大将軍遊行
        • 大将軍は年に５回、５日間「別の方角に遊行」する。例えば、その年の大将軍のいる方角が南の場合、南の方へ行くと良いことが無い（禁忌の方角）のですが、偶々その日「東へ遊行」していれば、その日は「南へ行ける」。
    • 中段
      • 二十四節気＝＝立春、雨水、啓蟄、春分、清明、穀雨、・・・。
      • 七十二候＝＝・・・、涼風至、寒蝉鳴、蒙霧升降、・・・。
      • 六十卦（現在の「六十四卦」ではない）＝＝二十四節気の「中気（１２個ある）と中気の間を５分割してできる卦」。図例では「侯常外」。
      • 月齢＝＝上弦、望、下弦、・・・。
      • 「滅」（月単位で計算して月と太陽の差が丸１日になる日）、「没」（年単位で計算して差が丸１日になる日）、日食、月食など。
      • その他（以下の如く、様々な「やるべき日」）
        • 「爪を切る（のに運の良い）日」。図例では「除手甲」とあるので、この日は「手の爪は切らない（方が良い、足の指だけにする（のが良い））」。
        • 「沐浴（するのに良い日）」。
    • 下段
      • 大歳神の位置で吉兆を占う。図例では「大歳前、天恩（の日で天の恩恵を受ける）、復（の日で吉事が重なる）」。
      • （どんな）吉事（に良い日か）＝＝図例では「加冠・拝官・上梁・補城郭」。
      • 日の出時刻、昼の長さ、日の入り時刻、夜の長さ。
    • 欄外
      • 七曜＝＝（今日はどの）惑星（に当たる日か）。火、水、木、金、土、日、月。
      • 二十七宿＝＝月のある位置。女、斗、箕、尾、心、房、・・・。
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• 具注暦の活用
  • 藤原師輔（延喜８年(908)〜天徳４年(960)）は「暦に関して」子孫に次のように遺訓している（「九条右丞相遺誡」）。
    • 朝起きたら、暦を見て「日の吉兆」を知る。
    • 年中行事は（あらかじめ）具注暦の間空き（の部分）に書いておいて、適宜確認する。
      • その行事で、例年と異なることがあった場合には、その旨を具注暦の間空きに書き加えること。
    • 沐浴、爪切りなどは「暦に従う」こと。
    
    
  • 平安貴族は（おおむね）このように活用していたようである。
    • 特に片違え（目的となる場所が禁忌の方角に相当する場合にその方角を避け、一度別の方角に出向いてから目的地の方向へ移動する）は必ず守っていた、ようです。
      • 具注暦の大将軍遊行を参考にして「片違え」する。
      • 源氏物語「帚木」では「片違えで思いがけず空蝉を出会う」話が出てくる。
  
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• 具注暦の日記への発展
  • 具注暦の間空き（の部分）にその日の出来事を毎日書いたのが藤原道長。
    • その具注暦を毎年残しておいた。それが御堂関白記（国宝）。
    • ３６巻書いたといわれるが、現存するのは「長徳４年(998)〜治安元年(1021)の直筆本１４巻」。
      • 藤原道長が亡くなったのは万寿４年(1027)。治安元年(1021)〜万寿４年(1027)の日記を書いたのかどうかは不明。
    • 「日記」と呼ばれることが多いが、実際は毎日２〜３行の「具注暦の間空き」に書いたメモ・記録といった方が正しい。
    
    
  • この手の記録（具注暦の間空きに書いたメモ・記録）には、源俊房の「水左記」（康平７年(1064)〜永保４年(1084)）を初め、天皇では「花園院宸記」（正和２年(1313)〜元亨２年(1322)）などが現存している。
  • 「具注暦」は失われているが、「具注暦の間空きに書いたメモ・記録」を写し取った写本が残るものも多い。
    • 有名なものでは、藤原行成（万寿４年(1027)没）の「権記」（正暦２年(991)〜寛弘８年(1011)）、藤原実資の「小右記」（現存：天元５年(982)〜長元５年(1032)）などがある。
    
    
  • これらは我々にとって歴史研究に欠かせない史料になっている。これらは具注暦が間空きを作ってくれたお陰である。
  
  

  御堂関白記（国宝）	藤原実資の「小右記」
  近衛家「陽明文庫」所蔵（写真は西日本新聞社から）	最近は「現代語訳」で読めるから、さらに便利に

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