（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

頭中将 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 役職名頭中将とは
  • 蔵人頭（くろうどのとう）と近衛中将を兼務した時に呼ばれる通称呼称です。
    • （すぐ下に示しますが）原則同じ時期には１人だけが兼務するので、特定の人物の呼称にもなります。
  • 蔵人頭とは
    • 「蔵人所」の長官で、定員は「２名」。
      • 通常、１名は「弁官」と兼ね頭弁（とうのべん）と呼ばれ、もう１人が「近衛中将」と兼ね頭中将と呼ばれた。
        • 「弁官」は、初期のうちは「少弁」が兼務したが、後に「中弁、大弁」が兼務するようになった。一般に「右少弁→左少弁→右中弁→権左中弁→左中弁→右大弁→左大弁」と昇進する。定員は「左右各１名」。
          • 枕草子では藤原行成が「頭弁」と呼ばれている。
        • かたや「近衛中将」は「内裏内を護る近衛府」の役職で、定員は「左右それぞれ２名」で計４名。時に「権中将」がいるときは６名になる。
          • 「従四位下相当」だが、「三位」で就くことが多くなり、時に「参議」が兼務することもあった。
    • 「蔵人所」は「天皇に近侍して、宮中の事務や行事・機密文書などを扱う部署」で令外官で、嵯峨天皇のときに創設された。
      • 蔵人所創設により、後院の蔵司はほぼ廃止された。
      • 職場は（いつでも天皇のお呼びに応えられるように）内裏の中に置かれ「蔵人所町屋」と呼ばれた。
      • 定員は当初「４名」。後に「６〜８名」になり、蔵人頭を加えて「８〜１０名」。
        • この他に「役職の付かない」雑掌と呼ばれる職員もいるわけで、蔵人司は全部で「約８０名」位で構成されていた模様。
  • 具体的に「どのような条件」に当てはまる人が選任されるかというと
    • 摂関家の子弟として生まれ
    • 五位の頃から、天皇や皇太子の近くで仕事をしてきて
    • 周囲の評価の高い　　　　　　　　　　　　　　　　　人が選任されている。
  • 仕事を通じて天皇や皇太子の覚えも目出度くなり、後に参議になることが多いので、若きエリートで、将来の大臣候補といった感じか。

• 枕草子や源氏物語に登場する頭中将は誰か
  • 枕草子は「正暦４年(993)〜長保２年(1000)」の間の出来事を書いたもの。
  • 源氏物語の「構想を練って、書き始めた」のは「長保５年(1003)〜寛弘５年(1008)」の間でしょう。
    • だから「正暦４年(993)〜寛弘５年(1008)の頭中将」がその候補となる、と考えてよいでしょう。この期間は「一条天皇」の在位期間になる。
      • 表に「年齢」とあるのは「就任時の年齢」。

        姓名	頭中将			離任後の役職	最高位	父子関係
        	就任時期（旧暦）	年齢	離任時期（旧暦）
        藤原斉信	正暦５年(994)8.28	２８	長徳２年(996)4.24	参議	大納言正二位	為光二男
        藤原正光	長徳２年(996)4.24	４０	長徳４年(998)10.23	大蔵卿	参議従三位	兼通六男
        源経房	長保３年(1001)8.25	３３	寛弘２年(1005)6.19	参議	権中納言正二位	高明五男
        藤原実成	長保６年(1004)2.26	３０	寛弘５年(1008)1.28	参議	中納言正二位	公季長男

      • 源経房と藤原実成
        • 記録では、在任期間が重複しているが、原則あり得ないので、多分、源経房の離任の記録が正しく残されていないのではないかと思う。。
    
    
  • 枕草子では
    • 「藤原斉信」を念頭に置いていると思う（１６６段）。執筆時期（長徳２年(996)）と在任期間が一致しているので、まず間違いないだろう。
      • 「藤原正光」は「大蔵卿」で２７５段に登場する。頭中将としては意識されていない。
      • 「源経房」「藤原実成」の頭中将時代を清少納言は知らない。
    • 「藤原伊周」に憧れを持っていたが、伊周の在任期間は清少納言の出仕前。噂話で格好良さを聞いた「内大臣伊周」を見ながら「頭中将伊周」を想像した可能性もなくはない。
    
    
  • 源氏物語では
    • 「源経房」「藤原実成」の在任期間と執筆構想時期が一致している。
      • 「源氏物語の頭中将」は「左大臣の長男」。「藤原実成」は「内大臣の長男」なので、こちらの方が合致している。
    • 「藤原公任」は過去（永祚２年(990)頃）の頭中将であるが、「父藤原頼忠は左大臣」だったので、こちらの可能性も無いとも言えない。

清少納言	紫式部	藤原公任	藤原斉信と藤原実成
			寛弘５年(1008)10月頃の出来事
「君達になるなら頭中将が一番」と書いた時、誰を想ったか	光源氏のライバル「頭中将」に誰を重ね合わせて執筆したか。興味津々	「和漢、和歌、書、管弦、いずれにも才能を発揮、万能」であったという。頭中将らしさがある	「紫式部日記絵巻」（切手）から。「参議（中宮大夫）藤原斉信（左）」と「参議（中宮亮）藤原実成（右）」が「紫式部（格子の向こう）」を訪ねてきた場面