（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

（平安時代の）太政大臣 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• そもそも太政大臣とは
  • 大友皇子・高市皇子を除いて、大宝・養老令制下の「太政大臣」について考えたい。
  • 令文により（意訳すれば）「天皇の師範となるような人を一人置く。国を治め道理を論じるを役割とする。適任者がいなければ置かない」。
    • 唐の「三師（太師・太傳・太保）・三公（太尉・司徒・司空）」を真似、これを大幅に統合した役職とした（日本独自の役職）。
    • 官位相当は正一位・従一位とされた。
  • 令文が観念的であり「左大臣・右大臣」と違って具体的な職掌が定められていないことが「役職をわかり難く」していた。
    • 置かなくてもよい役職だから、職掌を決める訳にいかなかった（というのが本音）。
  • （参考までに、平安時代以前の太政大臣は）
    • （１代目）大友皇子、（２代目）高市皇子、（３代目）藤原仲麻呂、（４代目）道鏡。

律令制下の「太政官」体制図

「令外官」は時代と共に逐次追加された

• 平安時代初期の太政大臣
  • 藤原良房
    • 良房は長年「右大臣」を務めていたが、55文徳の再三の薦めで斉衡４年(857)（２月１９日）「太政大臣」を受けた。
      • この時、源信が「左大臣」、藤原良相が「右大臣」になっているから、まさしく職掌なしの「太政大臣」であった可能性が高い。
      • その後貞観８年(866)になってから初めての「人臣摂政」（56清和）にもなり、天皇を師範したか。
  • 以降は摂政・関白に就いた後に「太政大臣」を受ける形態が続いた。
    • 「摂政・関白を経ないで太政大臣になった人はいない」。摂政・関白を務めた人の「上がり」という感じ。
    • その状況を下の表に示した（摂政・関白は何回も務める人がいるが、一番最初に就任した時期を記した）。
  • 天皇も「太政大臣の役割」について何回も諮問しているが、結局は元慶８年(884)菅原道真が提出した答申「分掌はないが、太政官としての役割はある（お飾りではない）」が「適当とされ」以降太政大臣の職は継続された。

藤原忠平（貞信公）	藤原伊尹（謙徳公）
忠平が61朱雀の摂政になったのは「ようやく」５１歳になってから	伊尹が64円融の摂政になったのは４６歳のとき

• 平安時代中期〜後期の太政大臣
  • 藤原兼家
    • 兼家は65花山を騙して「出家・退位」させ、「藤原頼忠太政大臣在位のまま」66一条を即位させ寛和２年(986)自ら摂政になった。
      • 異なる人が「太政大臣と摂政」を分けて務めるのは初例。
      • その後、兼家は「右大臣」を辞して無官の摂政となった（これも初例）。すなわち「摂政が天皇を補佐」し「太政大臣は無為」となった。
      • さらに66一条元服の「加冠役」を行うために「摂政兼太政大臣」に就任したが、加冠が終わると直ぐに退任してしまった。
  • 藤原為光
    • 花山事件の影の立役者藤原道兼を厚遇するため、正暦２年(991)「右大臣藤原為光」が摂政・関白を務めることなく「太政大臣」に、源重信を「右大臣」に、藤原道兼を「内大臣」にした。
      • 兼家・為光２人の就任の時から太政大臣と摂政・関白の役割は分離されるようになり、太政大臣は名誉職（お飾り）化されてきた。
  • 次の藤原道長に至っては
    • 長徳元年(995)（５月）66一条の「内覧」を務めてから、ずっと「政治を牛耳ってきた」にも拘わらず太政大臣在位は史上最短の３ヶ月。全く「太政大臣」に魅力を感じていなかったようである。
    • （蛇足ながら）道長の（歴史上有名な）兄たち「藤原道隆」「藤原道兼」も「複数回摂政・関白」を務めたが、結局は「太政大臣」にはならなかった。
    
    
  • 藤原信長
    • 応徳３年(1086)院政（72白河）が始まると、太政大臣の師範も「院」には及ばないので、益々「太政大臣の役割」は小さくなった。
  • 源雅実
    • 「村上源氏」（公家）。右大臣を経て、源氏初めての太政大臣になった。72白河（院政の親玉）中宮藤原賢子の同母弟であることから出世したか。
    • もはや「太政大臣」は「藤氏長者」の家系でなくてもよくなった。
  • 藤原忠通
    • 二度就任しているが、いずれも75崇徳および76近衛「元服の加冠役を務めるために」就任しただけで、すぐに退任している。
    • 一方、摂政・関白は「保安２年(1121)3.5〜保元３年(1158)12.9」と約３７年間継続的に務めている。

藤原公季	藤原頼通	藤原師実	藤原忠通（法性寺入道）
藤原家伝領の邸宅を「公季」のときから閑院（写真は閑院址）と称した。73堀河以降「里内裏」に	50桓武の賀陽親王の邸宅を「頼通」が拡張して高陽院と称した。70後冷泉以降「里内裏」になった	騙されて出家した65花山の後院「花山院」を「師実」が再建した	忠通の頃「太政官」も弱体化し、忠通は辛うじて「摂関家」を残した

• 平安時代末期の太政大臣
  • 藤原宗輔
    • 保元の乱で左大臣「藤原頼長」が敗れると、太政官に残っていた筆頭大納言「宗輔」が８０歳の高齢で「右大臣」になり、翌年の保元２年(1157)「太政大臣」になった。
      • このように「実務のできない」人物が「太政大臣」になるようになってきた。
    • 保元３年(1158)77後白河が院政を再開すると、太政大臣はまったく形骸化した。
    • さらに、摂政・関白は「藤原忠通の家系（これを「摂関家」という」）が独占する体制」ができてきて
      • 摂政・関白は儀礼政治家と化していた。
    
    
  • 平清盛
    • 平治の乱の戦後処理で77後白河の信任を得た清盛は、内大臣を経て仁安２年(1167)「太政大臣」になった。平家の初例である。
    • 「太政大臣」になってはみたものの、「院の意向」で何もできず、３ヶ月で辞めてしまった。
    
    
  • 藤原基房・九条兼実
    • この２人は（最後の）「摂政・太政大臣」を兼務した人物だが（摂政も太政大臣も）「儀礼的な役割」で、天皇を師範することからは「まったく離れていた」。

77後白河	平清盛	九条兼実
77後白河は京外の法住寺（鴨川の東岸）で院政を敷いた。写真は法住寺跡に残る「御陵」	清盛は六波羅とは別に「西八条第」に住んだ（写真）。77後白河院御所に近い	兼実は左京九条四町十二条「九条第」に住んでいた。左お二人に近い。写真は（京外の）「廟所」

• 太政大臣のその他
  • 平安時代の太政大臣に関する統計
    • 在位最長
      • 上記の表を丹念に計算すればわかることですが、最長は藤原良房で、在位は「１５年強」。
        • 参考までに、２位は「藤原忠平の１３年」。
    • 最長空位期間
      • 「藤原基経と藤原忠平」の間の「４５年強」。
        • 59宇多の後半〜60醍醐〜61朱雀の前半。延喜天暦の治の前半に相当する。
    
    
  • 鎌倉時代以降の「有名な」太政大臣
    • （６７代目）足利義満
      • 正平２３年(1368)征夷大将軍宣下、応永元年(1394)（１２月）太政大臣に転任してから応永２年(1395)まで。
      • どうやら「国王」または「天皇」になろうとしていたらしい。
    • （８７代目）豊臣秀吉
      • 天正１４年(1586)天下統一してから慶長３年(1598)薨去するまで。
      • 天正１３年(1585)関白就任、天正１９年(1591)関白辞職だから、一時期「関白太政大臣」であった。その後は「太閤太政大臣」。
      • （蛇足ながら）大阪城で詠んだ辞世の和歌はとてもよくできている。