（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

北山と洛北 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 【広辞苑第六版】
  • 北山
    • 北の方角にある山。特に京都北方の船岡山・衣笠山・岩倉山などの諸山の称。
      • （この解釈では）「京都市の北郊」を指すのではない（らしい）。
  • 洛北
    • みやこの北。京都の北の郊外をさす。
    
    
  • ２つとも京都人の感覚とは異なる。

北山通の「北山大宮」	京都府立洛北高校（旧一中）
大宮通が今や「北山通」を越えて伸びている	下鴨本通「北山下ル（北大路上ル）」にある

• 歴史的に追いかけてみよう
  • 北山は平安時代中期から使われている。
    • 平安時代
      • 源氏物語（長和３年(1014)頃）「若紫」に『北山になむ、なにがし寺に・・』と出てくる
        • この寺は鞍馬寺または大雲寺に比定されている。
        • 紫式部は鞍馬・岩倉を「北山」の一部と認識していたようです。
    • 室町時代
      • 足利義満が西園寺家の「北山第」を受け継ぎ「北山鹿苑寺（通称：金閣寺）」を建立した（応永４年(1397)）。
        • 平安京のすぐ北の地域は北山と考えていたようです。
        • 「北山文化」という言葉は、後世（≒現在）の歴史家が名付けたもの（だと思う）。
      • 北山丸太が「茶の湯の流行による茶室数寄屋の建築に利用され」、（産地の）中川地区が北山に含まれるようになった（応永年間(1394-)）。
        • 「都名所図会」（安永９年(1780)）には「北山丸太」と書かれている。
          • 因みに北山杉が「京都府の木」に選定されたのは、昭和４１年(1966)で、「北山杉」は比較的新しい言葉のようです。
          • 北山丸太は、平成１７年(2005)指定の「京都市伝統産業」の中に入っている。
    • こうやって「過去の文献を調べていく」と、江戸時代までに
      • 他にも高野、八瀬、鳴滝、中川、梅ケ畑なども北山と呼ばれていたことがわかる。
    • 以上をまとめると江戸時代の北山は下の図のような範囲だったと想像できる。
      
      
    • 因みに東山はもう少し早くて
      • 伊勢物語（９〜１０世紀頃）「５９段」に『東山に住まむと思ひ入りて・・』と出てくる。
      • 北山は「この東山」からの連想で使われたのだろう。

    江戸時代の北山 北東に、鳴滝（岩屋）、八瀬、高野 北西に、中川（杉）、梅ケ畑（高雄）、金閣寺 青丸＝鞍馬寺、　赤丸＝大雲寺（岩倉） 江戸時代の洛北 紫色の四角形に「頭文字」で記載 （注）鳴滝は、梅ケ畑近くの鳴滝を呼んだ（という説もある）

    
    
  • 一方洛北はせいぜい江戸時代中期までしか遡れない。
    • 江戸時代になって「雍州府志」（貞享３年(1686)）などの文献に洛北七野という言葉が出てくる（これらが初出か）。
      • 「洛北七野」といっても、その内訳は文献によっていろいろで「上野、蓮台野、紫野、平野、柏野、北野、内野」が平均的（上の図、橙色）。
        1. 「上野」は（現在の）紫野上野町あたりか。明確にはわかっていない。
        2. 「蓮台野」は「船岡山から紙屋川に至る谷間一帯」で北の風葬地（化野、鳥辺野と並ぶ）。上品蓮台寺のあるあたり。
        3. 「紫野」は「船岡山から大徳寺付近一帯」。
        4. 「平野」は「平野神社付近」。
        5. 「柏野」は（現在の）柏野学区あたりか。これも難しい。
        6. 「北野」は「北野天満宮付近」。
        7. 「内野」は（室町時代以降荒れていた）「平安京大内裏の跡地」、（現在の）旧内野八幡宮あたりか。平安時代なら「野と言ったら怒られる」ところ、平安京の内側。
        • 「点野（〆野）、萩野、・・・」が入ったりする文献もある。
        • 「７個」が確定していないという意味では京の七口に似ている。
      • まあ洛北は大内裏の北側と言っても良い（か）。
        • 「金閣の北山」とはエリア的には重複（混淆）がありますが。
      
      
    • 因みに洛東はかなり早くて（平安時代中期）
      • 六波羅蜜寺（天暦５年(951)）、真如堂（永観２年(984)）などお寺が造られ、多くの人がこのエリアを「洛東」と呼ぶようになっていた。
      • 洛北も「この洛東」の対句として使われたはずです。

• 北山＝京都北方にある山
  • 広辞苑は「船岡山・衣笠山・岩倉山などの山」と言っているが、山に登る人から見ればこれらは街中の山で山とは言わない。
    • しかも、岩倉山は東山三十六峰の一つです。
  • 京都百名山では、北山を「京都市中心部から見て北方に拡がる山域」と位置付けている。
  • 京都人にとって北山は登りたくなる山の宝庫です。

京都百名山での「北山の山域」	同「山名」
北端を「由良川」としているので山深い	背景をシンプルにして、山名がわかるように表示した

• 現在の北山と洛北
  • 川勝政太郎「京都古寺巡礼」（昭和３９年(1964)、社会思想社）では、古寺の分類に「上京、洛北、・・・」を使っている。その分布を示したのが下の図である。
    • 川勝は『大内裏の北辺の外側も「上京」』（下図の黄丸）＝江戸時代の洛北は「上京」と考えている。
      • 即ち、現在は、都部（みやこぶ、以前は「平安京」（赤四角形）だけだった部分）が北方に拡がっている、と考えているようです。
  • このように現在は「都部が拡がっている」こと、昔から「北郊は扇形状に拡がる」という考え方がある（二本の大河が北東、北西に延びている）ことを、考慮すると、下の図のように書ける。
    • 扇形状の北郊＝洛北となる。
    • 扇形の円弧は「岩倉、市原、氷室、沢山」とした。
    • うまく収まるが、いかがなものだろうか。
    
    
  • もう一度、歴史を振り返ると（京都の北郊は）・・・今のところの『結論』
    • 平安時代〜江戸時代中期は「すべて北山」。
    • 江戸時代中期〜近代に「大内裏の北郊に洛北（七野）が食い込んで」きた。
    • その後「都部が北に盛り上がり、それに伴い洛北が北に移動し、残りが北山」になった（ように思える）。
      • 今もって「鞍馬、大原は北山」である。

    川勝政太郎「京都古寺巡礼」の「洛北」	現代の「洛北」（今のところの『結論』）
    赤丸＝洛北、黄丸＝上京、黄△＝洛西	薄い赤の四角＝拡がった都部、扇形状＝現代の洛北 （余談）曼殊院、詩仙堂などは「洛東」に変更しても良いか

    
    
  • いくらうまく分けたつもりでも、実際の名称は混在している。

	北山通・北山駅は、都部近くで頑張っている その北側でも「洛北病院」と「北山病院」が向かい合っている