（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

京都人の密かな愉しみ 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 番組の表面的な紹介
  • 「脚本も演出」も源 孝志が兼ねて制作したドキュメンタリの入り込んだドラマ。
  • 第１作「京都人の密かな愉しみ」が２０１５年１月に放映された。これが好評につき連作が決まり、「第３２回ATP賞テレビグランプリ」も受賞した（２０１６年７月）。以下
    • 「同　夏」　　　　　２０１５年　８月
    • 「同　冬」　　　　　２０１６年　３月
    • 「同　月夜の告白」　２０１６年１１月
    • 「同　桜散る」　　　２０１７年　５月
  • 以上連作も好評で、京都の若者の成長にスポットを当てた「京都人の密かな愉しみ　Blue修行中　送る夏」も（同様のスタッフ）で制作され、２０１７年９月に放映された。これも連作になった。トータルで「１０作」。
    • 「同　祝う春」　　　　　　　２０１８年４月
    • 「同　祇園さんの来はる夏」　２０１９年８月
    • 「同　燃える秋」　　　　　　２０２１年１月
    • 「同　門出の桜」　　　　　　２０２２年５月

Book「京都人の密かな愉しみ」

NHKの制作班が「制作にまつわることを書いた」本を２０１８年３月、宝島社から刊行した

• この番組のテーマ
  • （１）京都の社会を構成する家の継続に悩む「京都人」
    （２）京都の古くからの「しきたり・仕組み」を守り繋ごうと不自由な生活に堪える「京都人」が
    それらの苦悩から解放された一瞬をどうな風に愉しんでいるかを、京都人目線で撮ってみる、という試みだった、のではないか（と私は思う）。
    
    
  • 家の継続
    • その「家」が後継者問題で「無くなる」と、京都の社会が「上手く廻らなく」なることがある。
      • 例えば、長谷川杼製作所が無くなったら、西陣織の「杼」が無くなってしまい、「良い西陣織」が作れなくなる。そんな「家」は京都に多い。
      • この番組の女主人公（常盤貴子が演ずる）は、２００年以上続く老舗和菓子屋の一人娘という設定。主人公は頑なに見合いもせずに「その家が無くならない」ように頑張る（ドラマとしてはあちこちに伏線が散りばめられている）。
        • 「和菓子屋」は他にもあるから、この店が無くなっても本当に京都の社会が廻らなくなることはないと思いますが、贔屓で長い付き合いのお得意先に難儀をかけることになる。京都人は小さい時から「人には難儀をかけるな」と躾けられているから、店はやめられない。
      • 挿入話（大黒さん、これがまた切ない話）の女主人公は、室町時代から続くお寺の一人娘という設定。お寺を守るためには、見も知らずの坊さんと結婚（養子）しなければならない。普通の若い男は近寄ってもくれない、Xmasプレゼントももらえない。
      • 挿入話（桐タンス）の主人公は、洗い屋（木造建築、木工製品を洗って綺麗にする仕事、従事者は極少）の一人息子という設定。家業を継ぐか、東京で編集者に進むか悩む。東京へ行けば、京都の「木の洗い社会・得意先」に難儀をかける。
    
    

    俵屋吉富	雲龍院	鹿王院
    番組の女主人公の店という設定になっている和菓子屋。撮影もこの店で行われた。室町通上立売上ルにある	挿入話（大黒さん）の女主人公は「このお寺」で生活しているという設定になっている。内部まで撮影される。泉涌寺の塔頭の一つ	挿入話（桐タンス）の主人公は「この場所（洗いの仕事場）」で、東京へ一緒に行く約束をしていた恋人に「家業を継ぐ」と告げる

    （先頭へ）
    
    
  • 不自由な生活
    • 源 孝志さんの言葉を借りると「京都という難解で複雑な仕組みで動いている町に生まれてしまったばかりに、そこでの生き方を子どもの頃から学び、懸命に会得し、親から子へ受け継いで、千二百年もの長きにわたって維持してきた涙ぐましいい努力」をしている（暗黙のルールを守っている）のが京都人。
      • しきたりの例：「門掃き」（番組ではドキュメンタリで紹介される）
        • 「門掃き」は「どこまで掃くか」で（いわゆる）「京都本」を賑わしているが、慣れれば「そんなに騒ぐほどのこともない」。
        • 大変なのは、荒天でない限り毎朝やらなくてはいけない、ということ。午後でも夕方でも「どなたかがゴミを落としていかれたら」すぐに掃除する。いつも「美しくするという気概を持って（呪縛に囚われて）」いなければならない。
        • ２日以上「家を空ける」ことなどできない。やむを得ない場合は「お隣さん」に門掃きをお願いしておく。（ある意味）かなり「不自由を強いられて」います。
      • 作法の例：「来客への挨拶」（番組では“微妙に”使い分けられている）
        • 「京ことば」は「少し違うだけ」で違う意味になることが多々ある。
        • （人を自宅に招き入れることはほとんどしないのですが、稀に来客があった場合）「おこしやす」と「おいでやす」を使い間違えると、お客さまが「気を悪くする」。いつも注意して言葉を選ばなければならない。
          • 「行けへん」は「I can't go」、「行かへん」は「I don't want to go」。
          • 「よろしおますなぁー」と相槌打たれても、場合によっては「喜んではいけない」。「おおきに」と言われても、アクセントによって意味が異なる。
      • 「決められた時に決められたことをする」の例：「地蔵盆」（番組には出てこなかった（と思います））
        • （私の地区では）８月２０日過ぎの最初の土曜日に地蔵盆をやります。この日は決して他の用を入れてはいけない。
        • このようなイベントは節季ごとに（季節の移り変わりごとに、夏越大祓など）多々あり、この制約の中で日々の生活をしなければ、京都では生きていけない。
          • （迷信であっても）祇園祭の最中には「きゅうり」は食べてはいけない。
      • 「相手のことを思って接する」の例：「観光客が多くても文句を言わない」
        • 京都人は「観光客」に対しても気を遣っています。桜の頃は「市バス」は大混雑。京都人は「観光客を先に乗せ」、時には「１台見送る」。
        • 紅葉の頃は、道が渋滞します。京都人は「遠回りになっても」（黙々と）混んだ道を避けます。
        • 観光客は「京都人の気遣いに気がつかない」。
    （先頭へ）
    
    
  • 密かな愉しみ
    • 毎日「不自由な生活」を強いられながらも、時には「羽目を外して」密かに愉しむこともあります。以下は、例。
      1. 上品でないおまんを食べる（番組では女主人公が“こっそり”食べています、この映像がとても綺麗）
         • 京都人には日常的に食べる庶民的な和菓子があります。老舗和菓子屋の一人娘でさえ、こんなおまんを食べます。
      2. お寺の台所でカレーを食べる（番組（挿入話（大黒さん））でやっている）
         • カレーの匂いが残って観光客に迷惑をかけるのだが、非公開日に併せて“好きな”カレーを食べる場面。京都人はうどんもカレーが好きです。
      3. 京都人は（他の人が）しそうもないことを（あたかも正しそうに）やる（番組ではドキュメンタリでいくつか紹介される）
         • 寿司と言えば、全国的に“冷たい”食べ物ですが、京都人は京の底冷えに対処するために、冬には「蒸した寿司」を好みます。
      4. 観光客が来ないような密かな場所を各人が持っている（番組でもあちこちに出てくる）
         • 例えば「椿の霊鑑寺」、特別公開で見られますが「観光客で大混雑」します。でも「脇道」に入れば“密かに愉しめます”。
         • 紅葉も同様。友人から問い合わせがあって紅葉の名所をまとめましたが、「紅葉の量」は少ないけれど「ただ」で混雑なく見られるところはあります。京都人はそれぞれ自分の紅葉の名所を持っています。（京都人はいけズだから）他人には教えません。
         • 私の一番の「密かな場所」は、東山三十六峰の“とある稜線”（秘密）
           • 私の家から歩いて３０分程度で東山三十六峰稜線に出る。そこで「ハイキングコース」にならないような枝道に入る。三十六峰の木漏れ日の下、コーヒーを飲みながらクッキーを齧り、本を読む。誰かに邪魔されることも無い。至福のひと時です。

1.「おまん」の名店	3.「蒸し寿司」の名店	4.私の「密かな場所」
ご存じ名代豆餅「出町ふたば」。ドラマで買い食いしているのは「栗餅」（季節商品）	冬になったら末廣に行きたくなる。寒くなっても冬の愉しみはある	霊鑑寺の脇道。「日光椿（天然記念物）」は見られないが、「ただ」で毎日、混雑なく見られます

• この番組でのロケ地
  • 冒頭で「京都人も愉しめる番組」になっていると紹介したが、この番組のロケ地は「テロップ」で案内が表示されるが、時になにげない京都の街角が「テロップ無し」で映し出される。
    • そんな映像を見ながら「あれはどこだ」と像解きをするのは愉しい。「第１作」の中から私の気が付いた範囲で、紹介します。
    • この他（「第１作」では）女主人公の住居の近くから、小川通の表千家不審菴、寺之内通の百々などが映されている。
    
    

    雨宝院（写真は本隆寺の壁）	桝形商店街	甘春堂 東店
    女主人公が日傘を差して「上立売通」を歩く映像。いかにも「京都人」のよう。それを「雨宝院」の境内から撮っている。この壁を見て「場所がわからなければ」いけない	舞台回し役の「英人大学教授」が“好んで”通う「小さな商店街」。「魚屋と豆腐屋」しか映らないが、誰が見ても「この商店街」だとわかる	挿入話（大黒さん）の女主人公が、この店で甘味を食べながら、同じ境遇の女友達と「不自由な生活」を愚痴り合う。２回出てくる

    
    
    • 「第１作」以外、“ざっと見た”範囲で（各作品から１つずつ）。

    報恩寺の鐘「鳴虎」	荒神橋	西寿寺
    映像は出てこないが、「第３作」で『報恩寺さんの撞かずの鐘やな』との台詞が入る。上立売通堀川東入ルだから、女主人公の家に近い	「第４作」挿入話（月待ちの笛）で、倦怠期の女主人公（本上まなみ）が、鴨川河原で笛を吹く“謎の”男に会うために、自転車でこの橋を渡る	「第５作」に出てくる、女主人公の異母弟が修行している「清鳳山慧観寺」。ロケ地はここ。よう見つけたものです