（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

法然 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 先行者
  • 日本では
    • 承和１４年(847)：円仁が唐から帰朝して不断念仏を始める。
    • 天慶元年(938)：空也が念仏宗を創める。
    • 永観３年(985)：源信が往生要集を著す。
    • 永承７年(1052)：「末法」に入る。
      • 天喜元年(1053)：平等院鳳凰堂が建立される。
      • 応徳３年(1086)：法界寺阿弥陀堂が建立される。
    • 天治元年(1124)：良忍が融通念仏宗を創める。
  • 思想的には
    • 源信の往生要集を読んで、「偏に善導大師に依るべし」と言い切るようになった。
      • 善導は唐・浄土教の僧。

• 略年譜

  西暦	和暦	数え年	事跡	補足説明	関連事跡
  １１３３	長承２年	１	誕生（4/7、美作稲岡荘）
  １１４１	保延７年	９	父漆間時国横死、那岐山菩提寺（師＝観覚）へ
  １１４５	久安元年	１３	比叡山西塔北谷（師＝源光）へ		母没(1146)
  １１４７	久安３年	１５	受戒出家（師＝皇円、戒師＝行玄）
  １１５０	久安６年	１８	西塔黒谷（師＝叡空）へ	叡空＝良忍の高弟＆円仁の九代嫡流
  １１５１	仁平元年	１９	法然房源空を名乗る（源光＋叡空）	「法華三昧」の修行（法華経）で見仏
  １１５６	保元元年	２４	清凉寺・醍醐寺・南都へ遊学（１年）	各宗派と宗論	保元の乱(1156)
  			一切経読破、二十五三昧会で不断念仏	「観経疎」（善導）で浄土門へ回入	皇円没(1169)
  １１７５	承安５年	４３	比叡山を下り、岡崎黒谷（中山の草庵）で開宗を決意	「紫雲石」から立ち上る「紫雲」を見た
  			この年が浄土宗開宗の年となる		円照没(1177)
  			西山広谷の草庵(1177〜)を経て、東山吉水の草庵(1179〜)へ		叡空没(1179)
  １１８１	養和元年	４９	東大寺大仏殿再建の勧進職に推挙される（作り話か）	民衆（特に女人）からの信仰が熱を帯びる	東大寺大仏殿焼き討ち(1180)
  １１８６	文治２年	５４	「大原問答」に招聘され、名声を確立		平家滅亡(1185)
  １１８９	文治５年	５７	九条兼実に受戒	高貴な人々からも説法を依頼される
  １１９８	建久９年	６６	（兼実の要請で）「選択本願念仏集」を撰述		親鸞が弟子入り(1201)
  １２０４	元久元年	７２	比叡山の僧徒、専修念仏の停止を迫って蜂起	法然は「七箇条制誡」を書いて弟子達を抑制する
  １２０７	建永２年2月	７５	（前年の松虫鈴虫事件から）専修念仏が禁止され、土佐に流刑	後鳥羽院の裁断、実際には讃岐まで	親鸞も越後に流刑
  １２０７	承元元年12月	７５	赦免されて、摂津・勝尾寺へ
  １２１１	建暦元年	７９	（吉水草庵は破壊されていたので）大谷の草庵へ
  １２１２	建暦２年	８０	一枚起請文を書いて、翌々日死去（1/25）

  
  

• 略年譜の補足
  1. 比叡山を下りて「最初に定着した」のは中山の草庵。記録は少ないが、間違いないと思われます。
     • 場所はかつての中山堂のあったあたりと推定される。
       • 藤原顕時の孫・信空を「西塔黒谷」に入房させるとき、顕時は神楽岡の荘園の一部を「師の叡空」に寄進しており、法然はその縁で「この一画」に草庵を建てたのではないか。
       • 承安５年(1175)当時、すでに真如堂はあった。
     • 「真如堂の外れ」にあった「紫雲石」（当時は荼毘の場所であった）から立ち上る「紫雲」（多分荼毘の煙）を見て「開宗の場所」として相応しいと考えた、との言い伝えも残る。
     • 「中山の草庵」は後に「信空の住房」となり、その機縁で「中山の草庵」は浄土宗七大本山の一つ金戒光明寺となった。
  2. 次に「中山の草庵」を出て、西山広谷の草庵に移った。一部の記録（「勅修御伝」）に「まず西山広谷に居を定め」とある記述を重要視して「中山の草庵」を無視する説もある。
     • 西山「広谷の草庵」に移ったきっかけは「治承元年(1177)の晩秋、円照が臨終に近いので会いたい」との連絡があったこと。
       • 保元元年(1156)清凉寺に遊学した折「高橋茂右衛門」の世話になり、その茂右衛門から紹介された「円照」（信西の子らしい）が「良峰寺（現在の善峰寺）の外れ」に草庵を設け念仏修行に励んでいた。
       • 連絡を受けた法然は「広谷の草庵」へ向い、円照に「最後の十念」を授けた。これを機に「広谷の草庵」を譲り受け、この地で「浄土宗の宗義」を固めた。
     • 「広谷の草庵」の場所は現在の光明寺の境内にあたり、「浄土門根元地の石碑」が建っている。これが機縁で、光明寺は「法然上人二十五霊場」の一つになっている。
  3. そして長く浄土宗布教の中心地となった東山吉水の草庵に移った。
     • 「なぜ吉水を選んだのか」、「いつ吉水へ移ったか」はよくわかっていない。
       • 「広谷の草庵」に居住したのは「約１年」とあるから、「吉水の草庵」に移ったのは、治承３年(1179)頃と考えるのが妥当なようです。
     • 場所は、現在の「知恩院大鐘楼の下〜安養寺本堂〜法垂窟」あたり一帯であったと推定されている。
     • 讃岐に流罪になる（建永２年(1207)）までの「３０年弱」はこの地を本拠とした。この機縁で、知恩院は「浄土宗総本山」になった。
  
  
  • 「吉水草庵」は女人禁制でなくすべての人に開かれていたので、多くの人が訪れるようになった。
    • （吉水に移ってすぐの）治承３年(1179)には「女院」上西門院の御所に赴いて説法をしている。
      • 式子内親王も法然を信仰した。最初の出会いはこの「上西門院の御所」か、「八条殿」か（法然は八条殿でも説法している、元暦元年(1184)以降）。
    • 東大寺大仏殿を焼き討ちした平重衡は寿永３年(1184)2/7一の谷で生け捕られ、3/10鎌倉へ送られた。その間、「戦争犯罪人」重衡の要望で法然の受戒を受けた。
    • 文治３年(1187)「天皇」後白河法皇の要望に基づき、内裏で（昇殿して）往生要集の講義を行った。その後も何回か昇殿している。
      • その結果、元久元年(1204)後白河法皇の１３回忌法要にも呼ばれた。その様子が「法然上人行状絵図」（国宝）に描かれている。
    
    
  • 流刑明けで戻ったのは「大谷の草庵」。
    • 現在の知恩院勢至堂あたり。
    • 没後は近くに埋葬された。墓所は煩わしい。
      • 一度は近くに埋葬されたが、旧仏教からの迫害を逃れるため、遺体を粟生の地に移して荼毘に付したらしい。そして分骨された。

• 京都における足跡
  • 法然を偲べる場所を（手持ち写真の中から）選んでみた

    法然得度の旧蹟	遊学の地「清凉寺」	「中山の草庵」近くの「紫雲堂」
    仁平元年(1151)得度が行われたのは「西塔」ではなく東塔西谷であった。現在は「法然堂」	保元元年(1156)法然はここで「７日間の夜の参籠」（天台止観の不断念仏）を行った	承安５年(1175)開宗のきっかけとなった紫雲石はこのお堂の中に置かれている
    「広谷の草庵」	「吉水の草庵」	大原問答が行われた勝林院
    写真は光明寺境内にある「法然火葬塚」。治承元年(1177)頃の草庵はこのあたりにあった	治承３年(1179)以降長らく法然が居住したあたりに残る「法垂窟」	文治２年(1186)法然はここで「３日間の法論」を行い、勝利した
    知恩院（境内図は知恩院HPから）	分骨の場所「金戒光明寺」	分骨の場所「清浄華院」
    建暦元年(1211)最後の「大谷の草庵」は「勢至堂」あたり、建暦２年(1212)入寂したのは「御廟」あたりとされている	「法然御廟」にも分骨されたと伝わる。金戒光明寺には「一枚起請文」も伝わっている	こちらにも分骨されたか。「法然上人御骨塔」とある

    
    
  • 法然上人二十五霊場（約半分が京都＝京都以外も多いですが）

    誕生寺（岡山）	法然寺（高松）	十輪寺（高砂）	如来院（尼崎）	勝尾寺（箕面）
    四天王寺阿弥陀堂（大阪）	一心寺（大阪）	報恩講寺（和歌山）	奥院（葛城）	法然寺（橿原）
    東大寺指図堂（奈良）	欣浄寺（伊勢）	清水寺阿弥陀堂（東山）	正林寺（東山）	源空寺（伏見）
    光明寺（長岡京）	二尊院（嵯峨）	月輪寺（愛宕）	法然寺（嵯峨）	誓願寺（新京極）
    勝林院（大原）	百万遍知恩寺（百万遍）	清浄華院（寺町）	金戒光明寺（黒谷）	知恩院（東山）

    
    

• 後継者
  • 鎌倉新仏教（法然の成功を見て、次々と新仏教が開宗された）
    • 建久２年(1191)臨済宗：栄西（興禅護国論）
    • 元仁元年(1224)浄土真宗：親鸞＝法然の最大の後継者（実は「浄土真宗の開宗時期」は明確にされていない。「教行信証」の完成時期を「開宗時期」と見做すらしい）
    • 嘉禄３年(1227)曹洞宗：道元（正法眼蔵）
    • 建長５年(1253)日蓮宗：日蓮（立正安国論）
    • 文永１２年(1275)時宗：一遍
    
    
  • 法然の弟子（私の知る代表的な人のみを記しました）
    • 信空：久安２年(1146)生。藤原顕時の孫。早くから法然に帰依した。「七箇条制戒」の執筆にも協力。金戒光明寺の二世（伽藍を整備）。
    • 感西：仁平３年(1153)生。承安元年(1171)弟子入り。法然の比叡山下山に同行。「選択本願念仏集」の執筆にも協力したが、正治２年(1200)没。
    • 証空：治承元年(1177)生。源通親の猶子。建久元年(1190)弟子入り。後の西山浄土宗、浄土宗西山禅林寺派、浄土宗西山深草派の祖、西山上人とも。
    • 弁長：応保２年(1162)生。建久６年(1195)弟子入り。浄土宗の第二祖、聖光房。後に九州で布教、その宗義は鎮西義と呼ばれた。
    • 源智：寿永２年(1183)生。平重盛の孫。建久６年(1195)弟子入り。「一枚起請文」を授けられ（金戒光明寺蔵）、法然没後の京都での布教の中心人物。
    • 親鸞：承安３年(1173)生。建仁元年(1201)弟子入り。建永２年(1207)法然流刑の折、越後に流された。浄土真宗の祖。
    • 湛空：仁安２年(1167)生。徳大寺実能の孫。吉水へ入ったのは遅かったが、法然の流刑に同行した。二尊院中興の祖。
  
  

  	「もろこしの我が朝にもろもろの智者たちの沙汰しもうさるる観念の念・・・」で始まり（中程で）「・・ただ往生極楽のためには南無阿弥陀仏と申もうして・・」（終わりに）「・・・智者のふるまいをせずただ一向に念仏すべし　証の為に両手印を以てす」そして（下記の「後文」を付けて）「日付、署名、花押」で終わっている。 （背景にうっすら「両手印」（本物の法然）が見える） 最後の３行（「後文」と呼ばれる）を意訳すると 「浄土宗の安心・起行はこの一枚の紙に言い尽くされています。源空（法然のこと）の考えにこれ以外のことはまったくありません。私亡なき後の誤った理解を防ぐために、思うところを書きました」
  「一枚起請文」（金戒光明寺蔵、同HPから） 法然（源空）真筆