（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

平安時代の史料 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 京都大事典に記載されている史料名（年次順）
  • 文華秀麗集
    • 日本で２番目に古い勅撰「漢詩集」。嵯峨天皇の命で弘仁９年(818)成立（撰者は藤原冬嗣ほか）。嵯峨・西院の春や冷然院の秋など平安京の自然を詠った漢詩が含まれている。「東山」という言葉もこの中で使われている。
  • 宇多天皇御記
    • 宇多天皇の日記。寛平御記とも呼ばれる。逸文集成されたものが残る。平安初期の政事儀式を知る貴重な史料。
  • 菅家文草
    • 菅原道真（昌泰４年(901)左遷、延喜３年(903)没）が残した「漢詩文集」。全１２巻。昌泰３年(900)成立。菅原道真の周辺の事柄（事件、行動、住居など）がわかる。
  • 大和物語
    • 平安中期の歌物語。作者不詳。天暦期(947-957)頃の成立、その後も増補され１７３段ある。貴族社会における和歌の諸相や物語、説話的な歌話を集める。京都を舞台とした話が多い。「伊勢物語」の系統をひき、説話文学への契機となった。均子内親王、源宗干の娘、右近の父なども登場する。
  • 蜻蛉日記
    • 道綱の母の日記。天暦８年(954)夏〜天延２年(974)の出来事が書いてある。夫藤原兼家との行動、上流貴族との交際などが記されている。女流日記文学のさきがけとされる。
  • 御堂関白記
    • 藤原道長の日記。長徳４年(998)〜治安元年(1021)の出来事が書いてある。摂関政治期・藤原氏全盛期にあたり、道長の権勢やそれに従属する受領などの動向を知る上での好史料。
  • 本朝文粋（ほんちょうもんずい）
    • 平安中期の漢詩文集。藤原明衡（新猿楽記の著者）の撰。１１世紀半ばに成立。嵯峨天皇〜後一条天皇までの漢詩を集め、のち文章家の模範となった。慶滋保胤の「池亭記」（天元５年(982)頃の東西両京の対照を書いている）も収録している。
  • 今昔物語集
    • 平安後期の説話集。全３１巻。成立時期は院政期の初め頃と見られる。作者・編者は源隆国・鳥羽僧正ともあるが不詳。院政期の京都や地方の武人・庶民などの生活を伝えるものが多い。すべて「今は昔」で始まり、「と語り伝えられています」で終わる。六の宮の姫君、少将滋幹の母などはこの説話集をベースにしたもの。その他、藤原義孝、源頼信なども登場する。
    
    

    藤原冬嗣（文華秀麗集）の邸宅跡	本朝文粋　　（先頭へ）
    後に閑院と呼ばれ、長きにわたって里内裏として使われた	「巻第六」の巻軸（重文、東京国立博物館から、鎌倉時代に書写したもの）

    
    
  • 中右記
    • 中御門宗忠の日記。寛治元年(1087)〜保延４年(1138)の出来事が書いてある。「中御門右大臣記」の略、「宗忠公記」とも。初期院政の実態、摂関政治から院政への転換を知る好史料。宗忠は一時期、検非違使別当を務めており、平安後期の京都の町の様相を知る上でも興味深い。鎌倉時代の写本（陽明文庫）は重文。
  • 台記
    • 藤原頼長の日記。保延２年(1136)〜久寿２年(1155)の出来事が書いてある。保元の乱に至るまでの天皇家・摂関家の動きを詳述する点で重要な史料。頼長には別に宮廷儀式を詳述した「台記別記」がある。古写本の一部（東京大学史料編纂所）は重文。
      • 「台記」の台は、大臣の唐名「三台」からとられた。「宇槐記」、「槐記」とも言う。
  • 梁塵秘抄
    • 後白河院が撰した歌謡集。１２世紀後半に成立。歌謡集１０巻・口伝集（音律の秘伝や芸歴などを記す）１０巻があったが、現存するものは僅か。篠坂などが歌われている。
      • 熊野詣（通算３４回）に熱中した後白河院はこんな歌を梁塵秘抄に残した。
      • 熊野へ参るには　紀路（きぢ）と伊勢路（いせぢ）のどれ近し　どれ遠し　広大慈悲の道なれば　紀路も伊勢路も遠からず
  • 宝物集（ほうぶつしゅう）
    • 平康頼が書いた「説話集」。治承２年(1178)の頃成立。
      • 平康頼は、平清盛に反逆を計画して「俊寛」らと共に鬼界ヶ島に流され、帰洛後「仏法が唯一無二の宝であることを説いた」説話集を書き上げた。大徳寺境内に供養塔がある（この説話集が念仏の啓蒙書になったためか）。
  • 年中行事絵巻
    • １２世紀後半、後白河院の命で「常盤光長」らが宮廷の年中行事を６０巻の絵巻を描いたとある（古今著聞集）。その後の火災で大半を失い、寛永３年(1626)御水尾天皇の命で残存分の１６巻を模写した。現在は「その模本」（および更なる模本）が残るのみ。宮廷行事の他、賀茂祭・祇園祭・やすらい祭など平安期の京都の生活を知るのに役立つ史料となっている。
  • 玉葉
    • 九条兼実の日記。長寛２年(1164)〜正治２年(1200)の出来事が書いてある。中世初期の京都を知る基本史料。
  • 明月記
    • 藤原定家の日記。治承４年(1180)〜嘉禎元年(1235)の出来事が書いてある。治承・寿永の乱ころの京都の動揺、鎌倉幕府成立後の関東と京都の関係など、院政期から鎌倉初期の政治史を知る基本史料。藤原定家の自筆本（冷泉家時雨亭文庫）は国宝。
    
    

    熊野詣出立の地	平康頼（宝物集）之塔
    鳥羽離宮に住んだ後白河院は「現在の城南宮から熊野詣に出掛けたと思われる	なぜ大徳寺（禅宗）にあるのかはあまり明確でない

• 京都大事典に記載されていない史料名（年次順）　　（先頭へ）
  • 六国史
    • 日本の正史、「日本書紀」「続日本紀」「日本後紀」（50桓武〜53淳和）「続日本後紀」（54仁明）「日本文徳天皇実録」「日本三大実録」（56清和〜58光孝、仁和３年(887)まで）の総称。
      • 「正史」だからと言って、すべて「正しい事実」であるとは限らない。
      • 「日本後紀」（４０巻）は応仁の乱で散逸。現存するのは１０巻（天理大学、重文）。
  • 類聚国史（るいじゅこくし）
    • 編年体である六国史の記事を、中国の類書に倣い分類・再編集した歴史書。宇多天皇の命で菅原道真が編纂した。寛平４年(892)完成。全２０５巻。ただし現存するのは６１巻。第二十五巻（東北大学）は重文。
  • 貞信公記
    • 藤原忠平（貞信公）の日記。延喜７年(907)〜天暦２年(948)の出来事が書いてある。原本は存在せず、子の実頼が抄出した「貞信公記抄」が残るのみ。朝廷儀礼や政務に関する記述も多く、１０世紀前半の政治史を知る上での基本史料。日本独自の暦注が加えられている。
  • 九暦
    • 藤原師輔（九条家）の日記。天暦元年(947)〜天徳４年(960)の出来事が書いてある。原本は存在せず、抄本・逸文によって内容が知られる（九暦抄、九条殿記、九暦記、九暦断簡）。平安時代中期の政治史を知る上での一級史料。
  • 和泉式部日記
    • 和泉式部の日記。長保５年(1003)４月〜長保６年(1004)正月までの「和泉式部の敦道親王との恋愛事件」を書き記した日記。女流日記文学（和泉式部の脚色が入っている）の代表的作品、史料としては若干問題含み。
  • 紫式部日記
    • 紫式部の日記。寛弘５年(1008)７月〜寛弘７年(1010)正月の出来事（中宮彰子の御産前後の記事中心）が書いてある。毎日の記録でなく、寛弘７年(1010)夏から秋にかけて「回想的に」一気に書いた。当時の出産の様子や、権力者道長をめぐる様々な平安貴族の様子を知ることができる。
  • 権記
    • 権大納言藤原行成の日記。正暦２年(991)〜寛弘８年(1011)の出来事が書いてある。加えて万寿３年(1026)までの逸文もある。一条天皇期（行成が蔵人頭）の政務運営の様相、権力中枢・宮廷の深奥を把握するための第一級の史料（行成らしい記述が見られる）。一条院の辞世も書き留めてある。
      • 倉本一宏『藤原行成「権記」全現代語訳』で読みやすくなっている。
  • 小右記
    • 小野宮右大臣藤原実資の日記。天元５年(982)〜長元５年(1032))の出来事が書いてある。道長と不仲であった三条天皇の信任厚く、藤原道長・頼通の摂関政治全盛時代の社会を知る上で大変重要な史料（若干道長に対して辛口）。写本の一部（前田育徳会）は重文。
      • 倉本一宏『三条天皇の信任「小右記」全現代語訳』で読みやすくなっている。
    
    

    日本三大実録	紫式部日記絵巻　　（先頭へ）
    江戸時代の写本（編年体、巻１３＝清和朝貞観８年(866)／全５０巻、愛媛県歴史文化博物館から）	鎌倉前期に絵巻にした作品で、国宝（五島美術館収蔵品から）

  • 日本紀略
    • 平安時代に編纂された歴史書で、六国史の抜粋＋六国史以後後一条天皇（長元９年(1036)）までの歴史を記す。編者不詳。勅撰ではない。全３４巻。
  • 大鏡
    • 平安時代後期の白河院政期（永保３年(1083)頃か）に成立したとみられる紀伝体の歴史物語（読み物）。文徳天皇（嘉祥３年(850)）〜後一条天皇の万寿２年(1025)までのことを「かなぶみ」で語るように書いている。作者は不詳、源顕房（寛治８年(1094)９月５日没）が有力視されている、内容は作者の歴史観が強く反映されている。写本の一部（冷泉家時雨亭文庫）は重文。
  • 水左記
    • 左大臣源俊房の日記。康平７年(1064)〜永保４年(1084)の出来事が書いてある。加えて永久元年(1113)までの逸文もある。自筆本が８巻残っている。摂関期から院政期への移行期を記述した数少ない史料。「水左記」の水は「源」のサンズイ＝水。自筆本の一部（前田育徳会）は重文。
  • 帥記（そちき）
    • 大納言源経信の日記。現存するのは逸文のみ。逸文として治暦４年(1068)〜寛治元年(1087)の記録が残る。晩年「大宰権帥」として大宰府に下向したことから「帥記」と呼ばれた。
  • 栄花物語
    • 編年体の歴史物語。宇多天皇（仁和３年(887)）〜堀河天皇（寛治６年(1092)）の出来事が仮名で書いてある。全４０巻。正編３０巻の作者は赤染衛門で長久３年(1042)頃完成。藤原道長の時代の記述が長い。続編１０巻は作者不詳。
  • 扶桑略記
    • 平安時代の私撰歴史書（神武天皇〜堀河天皇の寛治８年(1094)）。仏教の記事も多く「日本仏教文化史」の面もある。しかしその大半が今日伝存しない。
  • 後二条師通記
    • 藤原師通の日記。永保３年(1083)〜康和元年(1099)の出来事が書いてある。一部残る「自筆本」と藤原頼長が書写させた「古写本」は国宝に指定されている。
    
    

    栄花物語	大鏡　　（先頭へ）
    		一　太政大臣兼通 この大臣、これ、九条殿の二郎君、堀河の関白ときこえさせき。・・・
    鎌倉時代の写本（巻第１、九州国立博物館から）	冷泉家本（重文、紀伝体、巻第３、冷泉家時雨亭文庫から）

  • 讃岐典侍日記
    • 平安時代後期の仮名日記文学。作者は讃岐典侍藤原長子（藤原顕綱の娘、道綱母の四代孫）。上巻は堀河天皇の発病（嘉承２年(1107)）から崩御、下巻は幼帝鳥羽天皇へ再出仕した少し後（天仁元年(1108)年末）までが「心情的に」書いてある。特に堀河天皇への思い入れが強い。これも毎日書いたわけでなく、退仕してから思い出すように書いた日記。必ずしも「正しい日付順」に書いてある訳ではない。周防内侍とも一緒に出仕していた時期がある（日記に出てくる）。
      • 現在「日本古典文学全集」などに収録されている。
  • 長秋記
    • 皇后宮権大夫源師時の日記。７０巻あったが、現在は長治２年(1105)〜保延２年(1136)の出来事の１０数巻だけが残る。院政期の朝儀典礼等を調べる上で役に立つ史料。長承３年(1134)鳥羽院と待賢門院の熊野詣の記録を含む。藤原定家写の冷泉本は重文。
      • 「長秋」は、「皇后宮」の唐名「長秋宮」に由来する。
  • 中外抄
    • 大外記中原師元が短期集中的に「藤原忠実へのインタビュー」を行い後日「忠実が語った内容を師元がまとめた」というもの。内容は保延３年(1137)〜仁平４年(1154)に及ぶ。
      • 内容は、公家社会での「口伝」「教命」、院政期の時事・おりおりの回想（事件の裏側）など。
  • 殿暦（でんりゃく）
    • 藤原忠実（知足院殿）の日記（具注暦）。原文は伝わらず、文永４年(1267)に近衛基平が家臣とともに書写した古写本２２冊が残る（重文）。別に「忠実公記」、「知足院関白記」、「知足院殿記」とも呼ばれる。
  • 兵範記（へいはんき）
    • 兵部卿平信範の日記。天承２年(1132)〜承安元年(1171)の出来事が書いてある。藤原忠通・基実らに家司として仕えたため、当時の上級公家などの動きに詳しく、なかでも保元の乱および乱後の後白河院・平家などについての詳細な記述がある。
  • 吉記（きっき）
    • 権大納言吉田経房（勧修寺流藤原氏）の日記。仁安元年(1166)〜建久４年(1193)の記録とされるが、原本は現存せず、写本・逸文などで断続的に１３年分が残る。治承・寿永の乱ころの朝廷の動きを知る上での貴重な史料になっている。
  • 山槐記（さんかいき）
    • 内大臣中山忠親の日記。仁平元年(1151)〜建久５年(1194)の出来事が書いてある。源平抗争期の記録（特に東国情勢）が多い。
      • 「山槐」の「山」は中山、「槐」は「大臣家」の唐名「槐門」に由来する。
    
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